株式、土地、暗号資産――対象は変わっても、「短期間で値段が何倍にも跳ね上がるバブル相場」と「それに便乗する投機詐欺」は、何度も歴史に登場してきました。17世紀オランダのチューリップ狂騒から、18世紀イギリスの南海泡沫事件、20世紀の日本のバブル経済、21世紀のビットコインやICO(新規暗号資産公開)ブームまで、約400年にわたって似た構造が繰り返されています。
本記事では、バブル相場そのものの「値段の上下」を追うのではなく、その周辺で組み上がるビジネスモデル――とくに投機詐欺や情報商材型ビジネスの構造に注目します。歴史上の事件を振り返りながら、現代の暗号資産バブルをどう読み解くべきか、そのための足場を整えていきます。
バブル相場と投機詐欺はなぜ「セット」になりやすいのか
バブルとは、実体価値から大きく乖離した価格上昇が一定期間続く状態を指します。どの国でも、金融緩和や技術革新、制度変更などをきっかけに、「これは新しい時代の始まりだ」と信じられた局面で発生しがちです。
ここに投機詐欺が入り込む余地が生まれます。特徴的なのは次のような組み合わせです。
- 価格が上がり続けている「事実」
- 将来の巨大なストーリー(技術革命、国策、世界金融の変化など)
- 情報格差(インサイダー情報らしき噂、専門用語だらけの説明)
人々は、上がっているチャートと派手なストーリーを見せられると、「今度こそ、自分も間に合うかもしれない」と信じやすくなります。ここに、「特別な情報を持っている」と称する人物や、「この銘柄(通貨)を買えばまだ間に合う」と語る情報商材ビジネスが接続されていきます。
歴史的なバブルを見ると、「値段が上がる → それを正当化する物語が生まれる → その物語を利用する詐欺ビジネスが増える」という順番が、何度も繰り返されています。これはオランダ、イギリス、日本、アメリカ、最近のエルサルバドルやシンガポールなど、国を問わず見られるパターンです。
チューリップ狂騒から南海泡沫事件へ:古典的バブルの構造
17世紀のオランダ共和国では、珍しい品種のチューリップ球根がステータスシンボルとなり、1630年代にかけて投機的な取引が過熱しました。いわゆる「チューリップ狂騒」です。
ここで重要なのは、「球根そのものの価値」ではなく、「将来、その球根をさらに高く買ってくれる誰かがいる」という期待が価格の大半を構成していた点です。一部の取引では、球根1個が熟練職人の数年分の年収に相当すると言われるほど、価格がつり上がりました。
似た構造は、18世紀イギリスの南海泡沫事件にも見られます。1711年に設立された南海会社は、イギリス政府の国債整理と、南米との貿易利権を組み合わせた事業を掲げました。実際にはスペインとの関係などから貿易収益は限定的だったにもかかわらず、「大西洋貿易で莫大な利益が出る」という期待が膨らみ、1720年前後に株価は急騰、その後急落します。
南海泡沫事件では、ロンドンの証券市場に多数の「怪しい新会社」が乱立し、「永久に燃え続けるランプ」「海に沈んだ財宝引き上げ事業」など、現代から見れば荒唐無稽な事業計画に資金が集まりました。これは、バブル相場の熱気が、「実体の乏しいストーリー」を売るビジネスを大量に生み出す構造をよく示しています。
具体事例:日本のバブル経済と暗号資産バブルの比較
ここでは、日本のバブル経済(1980年代後半〜1991年前後)と、2017年以降の暗号資産バブルを並べてみます。対象は違っても、「ビジネスモデル」としては驚くほど似た面が見えてきます。
ケースA:日本の土地・株バブルと「必勝投資法」ビジネス
1980年代後半、日本銀行の金融緩和と「日本株式会社」の成功物語を背景に、日経平均株価と都市部の地価は急騰しました。東京都心の土地について「アメリカ全土より高い」といった比喩がメディアで語られたのは有名な話です。
この時期、証券会社やノンバンクだけでなく、個人向けの「株・土地必勝マニュアル」や高額セミナーが多数出現しました。構造を整理すると、次のようになります。
- 前提:地価も株価も「長期的には必ず上がる」と信じられていた
- 商品:投資テクニック、銘柄情報、未公開情報の噂など
- 収益源:情報やセミナー参加費そのもの、あるいは金融商品の販売手数料
実体としては「上昇相場そのもの」が集客装置になっており、情報の質に関係なく、「今参入しないと損をする」という焦りがビジネスを支えていました。バブル崩壊後、多くの情報商材や「必勝法」は価値を失い、書店からも消えていきます。
ケースB:暗号資産バブルとICO・取引所ビジネス
2017年以降のビットコインやイーサリアムの価格急騰、2020〜2021年のDeFi(分散型金融)ブーム、NFT(非代替性トークン)ブームは、世界的な低金利と「ブロックチェーン技術が世界を変える」という物語の下で一気に広がりました。
この局面でも、「儲かる」の周辺で以下のようなビジネスが乱立しました。
- ICO(新規暗号資産公開):事業計画を掲げてトークンを発行し、投資を募るモデル
- 高額な投資情報コミュニティ・サロン:月額会費で「有望銘柄情報」を配信
- ハイレバレッジ取引を提供する海外取引所や疑似投資サービス
中には真面目なプロジェクトもありましたが、ホワイトペーパー(事業計画書)の中身が曖昧だったり、資金調達後に消えてしまう「ラグプル」と呼ばれるケースも少なくありませんでした。アメリカ証券取引委員会(SEC)や日本の金融庁が規制を強化した背景には、「バブル相場と詐欺的案件が同時に膨らんでいた」という現実があります。
ケースC:バブル期に増える「マルチ型」勧誘とSNS時代の拡散構造
バブル期には、単なる投資勧誘にとどまらず、マルチ商法(連鎖販売取引)と組み合わさった案件も増加します。20世紀後半の日本では、健康食品や情報商材と投資話がセットになった事例が問題になりました。
21世紀の暗号資産バブルでは、SNSやメッセージアプリを通じて、「紹介するとキャッシュバック」「友人を招待すると報酬」といった紹介報酬型スキームが世界的に広がりました。表向きは「ポイント制度」や「コミュニティ報酬」と説明されながら、その実態は新規参加者からの資金流入に大きく依存するモデルも見られました。
ここでも、「すでに儲かっている」人々がSNS上で成功ストーリーを発信し、それを見たフォロワーがさらに新しい参加者を連れてくるという構図が繰り返されます。技術やプラットフォームは変わっても、南海泡沫事件でロンドンのコーヒーハウスにいた投機家たちと、本質的な心理構造はあまり変わっていません。
バブルの周辺で成立するビジネスモデルの共通点
歴史上のバブルと、その周辺で展開された投機ビジネスを比較すると、国や時代を越えて共通するパターンが見えてきます。
共通点1:価格上昇そのものが「広告」になる
オランダのチューリップ価格の高騰、日本の地価指数、ビットコインのチャート――どの時代も、「価格が上がっている」という事実そのものが最強の広告になっていました。グラフが右肩上がりである限り、ビジネス側は細かい説明をしなくても人を集めることができます。
共通点2:専門用語とストーリーで「理解した気分」にさせる
南海会社の「新大陸との貿易利権」、昭和後期の「金融ビッグバン」「国際金融センター」、暗号資産の「ブロックチェーン」「Web3」など、どの時代も専門用語が並びます。多くの参加者は詳細を理解しているわけではありませんが、「わからない自分が遅れているのでは」という不安が参加を後押しします。
共通点3:リスクは末端、利益は上流へ流れる
チューリップ狂騒でも南海泡沫事件でも、日本のバブルでも、最後に高値で掴まされるのは情報の遅い一般参加者でした。初期に仕掛けた金融ブローカーや大口投資家、プロジェクトの発行主体は、大きな利益を確定させて退場しやすい立場にいます。現代のICOや一部の暗号資産プロジェクトでも、「発行側が先に大量保有し、その後の高値で市場に放出する」という構図が繰り返されています。
規制とメディアは何をしてきたのか、何ができなかったのか
歴史を振り返ると、各国政府や規制当局、メディアも手をこまねいていたわけではありません。イギリス議会は南海泡沫事件後に証券発行規制を強化し、日本の金融庁はバブル崩壊後に証券会社の営業や銀行の不動産融資を厳しく監督するようになりました。21世紀に入ると、金融活動作業部会(FATF)がマネーロンダリング・テロ資金供与対策の国際基準を整備し、暗号資産交換業者にもKYC(本人確認)と取引モニタリングを求めています。
しかし、規制の歴史は常に「後追い」になりがちです。新しい商品や技術が出てから法律が整備されるまでにはタイムラグがあり、その隙間を狙ってビジネスが組み立てられます。1920年代のアメリカ株式市場でも、2000年代のサブプライムローンでも、規制が整う前に巨大なバブルが膨らみました。
メディアも、早期に警鐘を鳴らす役割を果たす一方で、バブルの最盛期には「新しい成長物語」を競って取り上げ、結果的に熱狂を煽ってしまうことがあります。歴史的に見て、「熱狂を冷ます記事」は、バブルのピークでは読まれにくいというジレンマも存在します。
私たちがバブルと向き合うときに持っておきたい視点
バブル相場は、必ずしも全面的に悪いものとは限りません。技術革新や新産業を加速させる側面もあります。しかし、その周辺には必ずといってよいほど、「情報弱者から時間とお金を奪うビジネスモデル」が貼りつきます。そこにどう対処するかは、21世紀の投資家・生活者にとって避けて通れない問題です。
歴史の教訓として、次のような視点を持っておくことが有効です。
- 値上がりしていることと、ビジネスモデルが健全であることは別問題である
- 「なぜ儲かるか」を、自分の言葉で2〜3行に要約できない商品には慎重になる
- リターンの源泉が「将来の参加者の資金」になっていないかを疑う
- 儲かった人のストーリーだけでなく、「損をした人の構造」にも目を向ける
- 規制当局(金融庁やSECなど)が発している警告文にも目を通す
チューリップ狂騒から暗号資産バブルまで、400年にわたる歴史を一言でまとめるなら、「人間は何度でも熱狂するが、構造はあまり変わらない」ということかもしれません。だからこそ、構造を知ることには意味があります。
まとめ:読者が意識すべきポイント
本記事では、オランダ、イギリス、日本、アメリカなどで起きた歴史的なバブルと、その周辺で展開された投機ビジネス・詐欺ビジネスの構造をざっとたどりました。技術や商品名は変わっても、「価格上昇が広告になる」「専門用語と物語が理解した気分をつくる」「リスクは末端、利益は上流」という骨格はほとんど変わっていません。
今後も、新しいテーマ(たとえばAI関連銘柄や新興国不動産など)をめぐって、似たパターンのバブルとビジネスモデルが出てくる可能性があります。そのとき、「これはチューリップ型なのか、南海泡沫型なのか、それとも暗号資産バブル型なのか」と、歴史上のモデルに照らして眺めてみることが、冷静さを保つ一つの方法になります。
バブルを完全に避けることは難しくても、「最も危険な位置に立たない」ことは可能です。歴史を知ることは、そのための最低限の自衛手段だといえるでしょう。
雨宮 忍(歴史事件・アーカイブ担当)/ 犯罪経済ラボ
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参考になる公的情報源
- 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が公表する、組織犯罪・違法資金フローに関する年次報告書や統計資料
- 金融活動作業部会(FATF)によるマネーロンダリング・テロ資金供与対策に関する勧告・相互評価報告書
- 各国の金融監督当局(例:金融庁、SEC)が公表する投資詐欺・暗号資産関連の注意喚起資料
- 世界銀行・OECDなどが公表する、シャドーバンキング・違法資金フロー・影の経済に関するレポート
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